「早期発見でも絶望せず」 認知症患者ら期待と不安 エーザイ新薬承認へ 2023.8.22 産経新聞 

2023年08月22日

アルツハイマー病の原因とみられる物質に作用する初めてのエーザイ製治療薬レカネマブが、国内で正式承認される見通しとなった。物忘れや判断力の低下などが進行していく認知症ではこれまで、症状を一時的に緩和する薬はあっても進行を抑制する薬はなく、当事者や支援者は新薬を歓迎する。ただ、症状の完治にはつながらず、社会の理解を求める声も上がった。 「早期発見が『早期絶望』にならない。受診を控えていた人たちが、希望をもって早期に受診できるきっかけになればいいと思う」 自身も若年性アルツハイマー型認知症であり、認知症患者や家族向けの相談窓口を設ける「おれんじドアはちおうじ」の代表、さとうみきさん(47)は、レカネマブの意義をこう語った。 レカネマブは初期の患者を対象としており、早期発見が早期の治療につながる。ただ、認知症を完治させるものではなく、投与対象も限定されている。 さとうさんが懸念するのは、国による承認で、当事者や専門家以外から認知症が完治するとの誤解が生じかねない点だ。「『なぜレカネマブを使わないのか』というような風潮になってしまうことが怖い。対象者があることをきちんと伝えてもらいたい」と話す。 自身は、研究参加する大学病院からレカネマブを使用できる可能性があると説明を受けたという。「私は今の自分自身の変化を受け入れることに精いっぱい。3年ほど進行を緩やかにするという効果と薬の副作用を考えると、使用に慎重になっている」と漏らす。 一方、夫は「少しでも望みがあればやってほしい」と使用を願っているという。さとうさんは「わが家だけでなく、本人と家族に受け止め方の差というものがあると思う。もっといろんな情報を得た上で自分で判断したい」と語った。 「認知症の人と家族の会」東京都支部代表、大野教子さん(72)は「『認知症はなったら終わり』という見方や患者への冷たい視線など、認知症に対する偏見を変える一つのきっかけになると思う」とレカネマブ承認の流れを歓迎する。 認知症患者だった夫の母親を亡くした大野さんは「初期段階で進行を抑制できれば、患者がより長く家庭や地域社会で生活できる」と指摘。周囲のかかわり方が一番大事だとした上で、「治療薬をきっかけに、一人一人が患者に何ができるかを考える世の中になるといい」と期待を込めた。(深津響)

 
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