認知症新薬「レカネマブ」 厚労省、秋までに判断…米は正式承認 (2023.7.7 読売新聞)
2023年07月07日
日本の製薬大手エーザイは7日、米製薬企業バイオジェンと共同開発したアルツハイマー病の新薬「レカネマブ」が、米食品医薬品局(FDA)から正式承認されたと発表した。病気の原因とみられる物質を脳内から除去する薬で、症状の進行を抑える効果が初めて認められた。日本でも、秋までに承認審査の結論が出る見通しで、年内にも実用化される可能性がある。
アルツハイマー病は、脳内に異常なたんぱく質「アミロイド βベータ (Aβ)」が蓄積することで神経細胞が傷つき、認知機能が低下すると考えられている。従来の認知症薬は脳内の信号の伝達を活発にして症状の一時的な改善を図るものだが、脳の 萎縮いしゅく が進むのは止められなかった。レカネマブは、Aβを取り除くことで脳の損傷を抑制し、認知症の進行を緩やかにする。対象は、早期の患者に限られる。
FDAは1月、中間段階の臨床試験結果に基づき、「迅速承認」という仕組みで暫定的に使用を認めた。今回は、エーザイが追加提出した「症状の悪化を27%抑制した」とする最終段階の臨床試験結果を評価し、正式承認した。一方で、脳の腫れや出血などの副作用が起こる可能性も指摘し、特に抗凝固薬の服用中は脳出血リスクが高いので注意が必要だとした。
日本では1月に、厚生労働省に承認申請された。重篤な病気の薬を対象にした優先審査の品目に指定されており、秋までに専門家部会の審議を経て、承認の可否が判断される見通しだ。承認されれば、年内に保険診療の枠組みの中で投与が始まる可能性がある。
エーザイは日米のほか、欧州連合(EU)、中国、カナダ、英国、韓国で承認申請している。認知症に詳しい池田学・大阪大教授(精神医学)は「米国の正式承認を受け、各国の承認審査の議論が活発化するとみられる」と話す。
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レカネマブの米国での販売価格は患者1人当たり年2万6500ドル(約380万円)。日本で保険診療になれば、薬価は国が定め、通常は米国より低くなるが、それでも年間100万円以上が見込まれる。患者の自己負担は、国の高額療養費制度があるため、70歳以上の一般所得層(年収156万~約370万円)は、年14万4000円が上限になる。
◆ アルツハイマー病 =認知症全体の6~7割を占めるとされる。症状が出る10~20年前から、脳内にアミロイドβが蓄積して神経細胞が傷つき、脳が萎縮(いしゅく)すると考えられている。世界保健機関(WHO)の推計では、世界の認知症患者数は約5500万人。日本では2025年に730万人に上ると推計されている。